守りたい想いを泡にのせて。夫婦2人で挑むワイン・シードル造り。
出産、子育てを機に長野県へ20年前に移住した松村夫婦。東京でシステムエンジニアとして働いていたお二人が今は里山の風景の「守り手」としてワインとシードルを造っています。そんなお二人にお話をお聞きしました。
きっかけは「ぶどうの皮」と「後継者のいないりんご農家」
ーHPを拝見するとワイナリーですがシードルも造っていて、ショップと宿泊施設も併設している。いろいろと聞きたいことはありますが、まずは、ワインをつくるきっかけを教えてもらってもいいでしょうか?
現在、夫婦二人で栽培から醸造、販売まで行っているのですが、もともと二人ともワインが好きで良く飲んでいました。妹夫婦がフランスに住んでいたこともあり、フランスへ行ってワインを飲んだり、お土産にワインをもらって飲むこともありました。
ある時、お土産でもらったワインが、小規模ワイナリーのものだったのですが、シンプルなデザインで、コルクにぶどうの皮がはさまっていたりと手作り感がある面白いワインでした。
そのワインに感動して、いつかこういうのを造りたいねという話を二人でしました。そんな話をしていた時期にラジオでワインアカデミーの放送を聞いて、一念発起して申し込もうということになりました。
ーラジオというのが運命的なものを感じますね。アカデミーで学んだあと、実際に栽培を始めるにあたり、どうして小諸市の圃場を選んだのですか?
小諸市、東御市で畑を探しました。でも、イメージしていた畑と出会うまでにはとても時間がかかりましたね。イメージしていた畑を見つけ、借りることができた。それが小諸市でした。
時間はかかりましたが、こだわって畑を探したおかげで、運命の歯車が回り出しました。畑を探して車で移動していたのですが、まさに伐採寸前のりんご農家さんの畑の前を通ったんです。急いで車を飛び出し、その場で畑を借りられないか直談判しました。
後継者がいないため事業承継できなくて伐採しようとしていたのですが、話をしたら、快く貸してくれることになりました。フランスに行った際に、シードルも飲んだことがあり、素敵だなというイメージがあったので、りんごのシードルも造ろうということになりました。
小諸市の魅力を町中から発信。ワイナリー兼ショップ兼宿泊施設を運営
ーシードルもワインも運命に導かれるように決まっていきますね。ワイナリーも何か運命が?
そうですね(笑)。
2016年よりシードルを販売し、栽培しているブドウも採れてきたので、ワイナリーを作ろうと思うようになり、ワイナリーの場所を検討していました。以前、「城下町フェスタ」というイベントに参加したのですが、その時にたくさんの古民家を見て素敵だなあと思いました。
小諸は駅の近くに観光名所や歴史的な建造物がたくさんあります。それなのに、もの作りが軒先から見える風景が残っています。この風景がとても素敵だなと感じ、この風景を残したいとも思いました。
この二つがあったので、「町中」「古民家」をキーワードに建物を探し、すごく悩んだのですが、今の場所になりました。ここは駅から5分の立地なので、試飲したお客さんが電車で帰れるし、観光の拠点にもなります。そのため、ショップと宿泊施設も併設することにしました。
地元の繋がりがシードルづくりを支える
ーここでも運命を感じますね(笑)。ワインとシードル、現在販売している割合はどうですか?
2019年にピノノワールを主にしたロゼワインをリリースしましたが、スパークリングワインとシードルが中心ですね。全体量はシードルの方が多いです。
もともと、りんごの木をお借りしていることもあり、シードルを先に造ることができました。
その後、複数の小諸のりんご農家さんとご縁をいただきました。その中で、2019年にひょう被害があって、大きなダメージを受けたりんご農家さんがありました。その時に被害にあったりんごを購入させていただいて、傷を手作業ですべてきれいに取り除きシードルを造りました。
被害のあったりんごを捨てずにすんで、とても感謝されたのですが、私たちも役に立ててうれしかったです。今後も、シードルづくりにも力を注いでいきたいと思っています。
良いぶどうをつくるためにぶどうに見せる人の影
ーとても素敵なエピソードですね。このままシードルのお話もお聞きしたいのですが、話をワインに戻させていただきます。ぶどうを作るうえで気を付けていることはありますか?
「ぶどうは太陽の光を好むが、人の影も好き」という言葉を聞きました。畑には足繁く通いなさいという例えですが、すごく良い言葉で、全てにおいて共通の考え方だと思っています。
そのため、芽吹いてからはできるだけ畑にいるようにしています。
日々畑に出て、ぶどうとの対話を大事にして見守って、ぶどうの変化を感じられるようにしています。
そうすると、芽吹く時、花が咲く時、ヴェレゾン(着色)が始まる時。始まりの時に立ち会うことができます。この始まりの瞬間はとても好きですね。
小さな農家がこの風景を守る。ぶどうづくりが繋ぐ家族の絆。
ー栽培しているからこそ感じられる幸せですね。今後の展望などはありますか?
地域の農家さんとの交流も増えて強く感じていることなのですが、地域に貢献したいと思っています。
自分の代で終わってしまうと心配されているりんご農家さんがいますが、それはワイン用ぶどうにも言えること。
農業で生計を立てるためには大規模化はとても重要な要素ですが、フランスでは小さなドメーヌがいくつもあって、その風景を形成しています。
日本の風景を守るためにも私たちのような小規模な農家が増えることも大事だと思っています。
私たちは栽培、醸造、販売、宿泊施設を営んでいますが、宿泊されたお客様で同様のことをしたいという方もいらっしゃいます。
そういう方には少しでもノウハウを提供できたらと思っています。そうすることで後継者不足で悩む農家さんの助けになります。そして、みんなでこの素敵な風景を守っていければいいなと思っています。
ー里山の風景を守る。素敵な夢ですね。最後に、松村さんご夫妻にとってワイン、シードル造りとは何ですか?
一言でいうと「喜び」ですね。シャルドネを初めて植えた年に父が亡くなりました。生前父に「ぶどうを植えてワインを造りたい」という話をしたときに「楽しくやりなさい」というアドバイスをもらいました。
実際にぶどう栽培を始めてから忙しい時期は家族、親族の力をかりて作業をしています。そのため、家族、親族の絆を感じながら、父のアドバイス通りワイン造りを楽しめています。だから、「喜び」ですね。
編集後記
栽培から販売まで一貫した事業を行う事業家のお二人かと思っていましたが、お話をお聞きすると、小諸に長く住んでいると気づきにくい小諸の魅力を最大限引き出してくれるお二人でした。新しい風で小諸の魅力がさらに増すようにさらなる発展に期待しました。
そんなアンワイナリーさんのシードル、スパークリングワインは小諸市ふるさと納税の返礼品にもなっています。
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【編集】
柴崎尚実 I 農林課
小諸市内のワイン用ぶどう振興だけではなく、千曲川ワインバレー(東地区)の事務も担う。お酒も好きなので、消費者の立場からも市内の4つのワイナリーと4人の生産者情報を記事にします。