農業でみんなのIKIGAIをつくる、新米いちご農家さんの話。
小諸市で介護事業を営む株式会社コトブキが2019年に農業法人コトブキファームデポを設立し、夏秋いちご(かしゅういちご)の生産を始めました。
なぜ、介護事業者が?
なぜ、いちごを?
暑い季節の栽培が難しいいちごですが、敢えて夏秋の栽培に挑戦した経緯と今後の展望について、圃場長の石坂さんにお話をお聞きしました。
夏秋いちごって何ですか?
-そもそも夏秋いちごと普通のいちごとは違うのでしょうか?
もちろんいちごはいちごなのですが、品種が違います。
いちごは暑さに弱いので、冬から春にかけて生産量が多くなります。諸説あり信ぴょう性は薄いようですが、一月~五月に採れるため「いちご」と呼ばれるようになったという説もあります。
そのため、有名な品種のほとんどは冬から春に採れる「一季成り」の品種となります。それに対して、うちのいちごのように1年を通して収穫が可能な品種を「四季成り」といい、夏、秋の暑い時期にも採れることから、特に「夏秋いちご」と呼ばれます。
夏秋いちご自体は以前から栽培されていたのですが、生産量が少ないことや品質が良くなりづらいことなど課題があり、一般の食卓には上がりにくく、あまり馴染みがありません。それでも夏と秋にいちごの需要が0になるわけではないので、不足する分は輸入で補っています。
介護事業者だからこそ向き合う「生きがい」。「いちご」に希望を託す。
-1年中採れるいちごと季節限定で採れるいちごの違いということですね。なぜ、介護事業者の「株式会社コトブキ」が「農業法人コトブキファームデポ」を設立し、いちご栽培を始めたのですか。
それは、二つの目標があるからです。
一つ目は介護施設入所者の方の「健康維持」と「生きがいづくり」です。
健康維持のためには体を動かす必要がありますが、継続的に農作業をすることで心身機能の維持、向上が期待できます。また、いちごを育てることや誰かと一緒に作業をすることが楽しみとなり、それが「生きがい」になる可能性もあります。
もう一つは元気な高齢の方のための「雇用の場づくり」です。
高度経済成長期にがむしゃらに働いてきた方々の中には「働くこと」が「生きがい」になっている方もいらっしゃいます。しかし、サラリーマンだと、農作業をしたことがなく、65才、70才になってから一人で一から農作業を始めるのは難しいという方もいらっしゃいます。
そのような方には仕事としていちご栽培をしてもらい、さらに人との繋がりをもってもらいながら「生きがい」を提供できたらと考えています。
この二つの目標を実現するためにたどり着いたのが「いちご」でした。
いちごは比較的マニュアル化されたハウスの中の作業となり、高齢の方が扱いやすいサイズでもあります。さらに、小諸市はいちご生産発祥の地かつジャム製造発祥の地です。また、標高が高いため夏も涼しく夏秋いちごの栽培に適しています。そのため、小諸市との親和性も高くまさに地の利があります。
また、雇用のことを考えるとどうしても収益の問題は避けては通れません。現状、夏秋のいちご需要は輸入に頼っていることを考えると、高品質のいちごであれば、事業化できるのでは?という話になりました。
私は数年前に転職してコトブキに入りました。そこで、初めて介護の現場を知ったのですが、この仕事を通して人に関わることで、考え方が大きく変わりました。いずれは全ての人が等しく年をとります。年をとった時に「健康」であり「生きがい」を持っていることの重要性を痛感しました。人は一人では生きていけないですからね。
いちごの品質が証明した、お客様がお客様を紹介してくれる好循環
-介護事業者ならではの発想ということですね。是非目標を実現していただきたいです。そのためには、いちごの販売が重要だと思うのですが、そちらはどうですか?
2020年から栽培を開始し、今年で2年目になりました。販売は1年目から始め、事業者の方のみに販売をしています。大変ありがたいことに栽培初年度から大変好評をいただいており、お客様からお客様を紹介していただける良い循環に恵まれました。
近隣のホテルや洋菓子店だけではなく、遠くは京都まで出荷させてもらっています。
今栽培しているいちごは気温が高い夏秋でも品質の良いものができます。味がしっかりして、香りが強く、表面だけではなくいちごの断面にも赤みが入ります。しかも、気温が下がればこの質はさらに良くなります。
生産は6月から12月まで続けており、昨年は12月25日で終了したのですが、お客様にもうちょっと出せないかとお話をいただけたのは本当にうれしかったですね。
苦労はしたが、「いちご栽培は間違っていない」
-目標に向かってとても順調そうですが、苦労などはなかったですか。
そんなことないですよ。幸いにして、お客様にご迷惑をかけるような失敗は無かったですが、昨年は本当に苦労の連続でした。
いちご栽培は私を含め3人で取り組んでいるのですが、全員いちご栽培は初めてです。私に至っては、いちごが初めての農作業です。本当に「知らないことは怖い」ですよ。これから起きるであろう1時間後の問題にも対応策が何もないという状況で毎日いちごと向き合ってきましたから。
ただ、そのような中でも、今シーズンの苗の定植は良かったですね。介護事業の社員にも出てきてもらい、みんなで植えました。いままでいちご栽培に関わっていなかった社員にもいちごのことを知ってもらい、リフレッシュしてもらえました。さらに話したりしながら作業することで社員同士の絆も深まりました。
目標としている農業を通じての「生きがいづくり」は間違っていないんじゃないかと思えましたね。
目標達成のための第一歩。まずは、地固めを。
―苦労の中でも良いことがあって、お聞きしていても楽しかったです。今後の展望はどうですか。
目標としている施設入所者の方とご高齢の方の「生きがいづくり」。この目標を達成するためにも今は品質の安定化と生産量の拡大に取り組んでいます。新規のお客様の引き合いもいただいていますが、結果的に、全てにお応えできていないのが現状です。
品質をさらに向上させて、量を増やして、今のお客様を大事にしながら、新規のお客様のご要望にもお応えしていきたいですね。
そして、栽培ノウハウが蓄積されたら、いよいよ「生きがいづくり」のための場を提供していきたいと考えています。
メッセージ
―一般の消費者へ直接お届けするのはふるさと納税が初めてとなりますが、何かメッセージはありますか?
2020年9月からふるさと納税に掲載させていただくものは、1箱48玉~60玉でのお届けを予定しています。
一番暑い時期はどうしても粒が小さくなりがちですが、できる限り良いものをお届けしたいと思っています。甘みの中に感じる酸味。いちごらしい強い香り。夏のいちごをご家庭で楽しんでいただければうれしいです。
また、事前にご連絡いただければ、圃場の見学、現地での販売もしておりますので、お気軽にお問合せください。
―最後に事業者の皆さんもこの記事を読まれると思いますが、何かメッセージはありますか。
まだまだ経験は浅いですが、味、香り、色味と自信を持ってお出しできるいちごをお届けします。
まずは、いちごと圃場を見ていただき、お話できればと考えております。お気軽にお問合せください。
日本では当たり前の「生きがい」ですが、世界的には翻訳する言葉が無く「IKIGAI」として紹介する本が書かれたことで、世界の共通語となりつつあるそうです。
全ての人に例外なく訪れる「老い」。老いを否定するのではなく、受け入れたうえで自分たちができることに挑戦し続ける熱い想いに、小諸市での夏秋いちごの栽培の神髄を見た気がします。いちご栽培だけではない、様々な可能性を感じる素晴らしい事業の展望に胸が熱くなりました。
コトブキファームデポへのお問い合わせはこちらから。
order2depo@kotobuki-group.net
貴重な夏秋いちごが2020年9月から返礼品となる小諸市ふるさと納税はこちらから。