長野県でパイナップル⁉「天空の大地」で、空と土が見えるワイン造り。
Terre de ciel(テールドシエル)
長野県小諸市滋野甲天池4063-5
千曲川ワイン倶楽部、小諸ワイングロワーズ俱楽部
品種 ソーヴィニヨンブラン、メルロー、ピノノワール、シャルドネ、ピノグリ、ミュラートゥルガル、リースリング、カベルネフラン、シラーなど
代表者 池田 岳雄
長野県小諸市生まれ
2015年 株式会社テールドシエル設立
2016年 千曲川ワインアカデミー入校
2018年 ファーストヴィンテージ 4種類をリリース
2020年 醸造所開設
栽培・醸造責任者 桒原一斗
栃木県足利市生まれ
J.S.A. ソムリエ
2004年 有限会社ココ・ファーム・ワイナリー(栃木県足利市)就職
2020年 小諸市移住
第二の人生をワインに捧げる池田さんと、二女の夫で、長年ワインに携わり、醸造所開設を契機に、小諸市に移住した桒原さんにお話を伺いました。標高950mという高地で、ワイン用ぶどうを栽培することになった運命的な出来事や、「天空の大地」で空と土を表現するワイン造りへの想いが詰まったインタビューです。
「天空の大地」に魅せられて
-まずは、池田さんにお話を伺います。ワインの道に進むことになったきっかけを教えてください。
(池)通信会社を退職し、第二の人生を考えていたときに、玉村豊男さんの「千曲川ワインバレー 新しい農業への視点」という本を読み、導かれるようにワインの道に進みました。
そして、小諸市内の糠地という地でワイン用ぶどうの栽培を始めることになりますが、この土地との出会いはドラマチックで、社名の「テールドシエル」にも関係します。
2014年のことです。ワイン用ぶどう畑を探しに、家族と一緒に車で市内をひと回りしたとき、たまたま糠地で夕立にあいました。夕立がおさまり、引き続き畑を探して浅間連峰の裾野を上がっていたとき、ふと下を見ました。その瞬間、眼下に雲海が広がり、当時荒廃地だったこの土地が浮かび上がっているように見え、言葉に言い表せないほど幻想的な美しい風景が目に飛び込んできました。
この風景に運命的なものを感じましたし、ワイン用ぶどうに最適な南西向きの斜面でしたので、家族と「ここだね!」と話したのを覚えています。このときの幻想的な風景が「テールドシエル=天空の大地」と社名を決めるきっかけになりました。
「標高ナンバー1」から挑戦
-ワイン用ぶどう栽培では、他の地域とは違った苦労があるとお聞きしました。
(池)このほ場は、標高950mに位置しています。運命的な出会いをしたほ場ではありましたが、当時のワイン用ぶどう栽培は標高800mまでが一般的で、周りから「長野県でパイナップルを栽培するようなものだ」なんてことも言われました。しかし、諦めることなく、既にワイン用ぶどう栽培の経験が豊富だった桒原(当時は足利市在住)の助けも借りて、周囲を説得しました。
標高が高いことで苦労していることは、凍害防止対策として、12月中に木にわら巻きをすることです。他の地域ではしない作業です。一本ずつにわらを巻く作業ですので、根気と手間が必要です。
そんな苦労もありながら、2018年にリリースしたファーストヴィンテージ「ソーヴィニヨンブラン」が衝撃的なデビューをしました。標高が高いからこそ作り出せる、しっかりとした酸があり、かつバランスが取れたフルーティーなワインになっていることから、著名なワイン評論家の方が評価してくださり、即日ソールドアウトとなりました。
当時は、このほ場が「標高ナンバー1」でしたが、今では他の地域の高地でも栽培が盛んになってきました。長野県内でも原村の1,000mを超えるほ場で、栽培が始められています。
「糠地ウォーク」はどうかな
-この糠地地区には多くのグロワーさんがいますね。
(池)そうですね。私が最初に入植しましたが、高地でも栽培できることが証明できましたので、そんなことも後押しになったと思います。それから、アクセスもいいんです。上信越自動車道小諸ICから車で15分以内で来ることができます。
小諸ワイングロワーズ俱楽部は2016年に7名で発足しましたが、今では20名以上になっていて、糠地のグロワーさんも含めて、みんな仲良しです。千曲川ワインアカデミーの同期生もそうですが、横のつながりがあることは財産です。
それと、小諸市のワイン文化は着々と前進しています。行政の様々な応援があってイベントも開催できますし、栽培に関しては、市から委嘱されている6次産業化推進員の桜井さんの熱血指導が我々を後押ししてくれます。
そんな土地柄ですので、フランス・ボルドーのメドックマラソンじゃないですけど、ヴィンヤード巡り「糠地ウォーク」なんてイベントも面白いかもしれません。私たちは消費者と会話を楽しみながら、その会話からレベルアップのヒントもいただけます。地域全体で盛り上げっていきたい、そんな想いがあります。
「天と地と人」今でも大切に
-ここからは桒原さんにお話を伺います。ワインの道に進むことになったきっかけを教えてください。
(桒)高校卒業後、消防士として勤務していたとき、こころみ学園(栃木県足利市)の園長先生の講演を聴く機会があり、そこで胸にささる言葉がありました。それがきっかけで、関連法人のココ・ファーム・ワイナリーのボランティアに参加しました。
そして、そのときに先輩方から教えていただいた、ワイン造りは「天と地と人」という言葉とその意味に感銘を受け、私もこの手でおいしいワインを造りたいと思い、ワインの道へ進むことを決心しました。テロワールを表現し、おいしいワインを造るには、風土の環境が良いだけではなく、人の手が必ず必要です。人が手をかけるところは手をかけ、手をかけないところはそっと見守る。「天と地と人」今でも大切にしている言葉です。
「何十年先、何百年先」思い描き
-足利市にいた頃から、小諸市の風土に注目し、この糠地地区でワイン用ぶどうの栽培を始めることについて、池田さんの背中を後押ししていたとお聞きしました。
(桒)小諸市に遊びに来るたび、ここはよい風が吹き、湿気が少なく、晴天率がよい、それから日中の寒暖差があることなどを体感していましたので、「よいワイン用ぶどうができる」と思っていました。
社長(池田さん)がほ場を探していたとき、ワイン造りが「何十年先、何百年先」も続いていくことを思い描いて、なるべく標高の高いほ場がよいと提案させていただきました。
「人の環」に感謝
-桒原さんにとってワイン造りとはどのようなものでしょうか。
人生であり、終わりはないと思っています。毎日畑に行って、愛情をもってぶどうを見て、手をかける。おいしいワインを造るには、その毎日が積み重なって、健全で完熟したぶどうを収穫することが大切です。このように栽培にはできるだけ手をかけますが、逆に醸造にはあまり手をかけず、必要なときに背中を押すようにしています。私が造るワインは、この風土に育まれたぶどうをそのまま表現したいと思っています。
このワインがきっかけで、色んな人が集まってきてくれます。その方々がまた「人の環」を大きくしてくれ、みんなが助け合います。人との出会いには感謝しています。
そして、ワイン造りには終わりがありません。一年が終わると「ああしたい、こうしたい」という想いが湧き上がります。新しい品種を植えたり、栽培方法や貯蔵方法など、色んなことにチャレンジしていきたいです。
編集後記
池田さんは誰にでも好かれる人柄で、小諸ワイングロワーズ俱楽部の会長さんとしても活躍されています。グロワーさんはじめ、みんなが慕っているので、ワイナリーには自然と人が集まり、笑顔が溢れます。桒原さんは長年ワインに携わっているので知識も豊富で、職人さんの「かっこいい」が漂います。2人はチャレンジ精神旺盛で、留まることを知りません。長い物語は始まったばかりです。
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【編集】
柴崎尚実 I 農林課
小諸市内のワイン用ぶどう振興だけではなく、千曲川ワインバレー(東地区)の事務も担う。お酒も好きなので、消費者の立場から市内の3つのワイナリーと3人の生産者情報を記事にします。